どれも大切に思えるとき、自分の価値観を見つける方法
自由、安定、成長のどれも大切に思えるなら、言葉の順位ではなく、経験・選択・トレードオフから、目の前の判断で何を守りたいかを確かめます。
こんな思いを抱えている方へ
大切にしたい価値観はいくつか思い浮かぶものの、今の選択でどれを基準にすればよいか決めきれない人。
この記事で考えられること
今の選択で守りたい価値、その根拠となる経験、そして別の価値をどこまでなら譲れるのかを説明できるようになります。
どの言葉も「自分らしい」と感じるとき
価値観のワークシートを開くと、こんな言葉が並んでいるとします。
自由。安定。成長。つながり。創造性。安心。貢献。
そのうち三つか四つに丸をつけます。
すると、次の質問が出てきます。
一番大切なのはどれですか?
そこで手が止まります。
自由は大切です。生活のすべてを誰かに決められたくはありません。
安定も大切です。不確実な状態が続けば、日常生活そのものが苦しくなることがあります。
成長も大切です。ずっと同じことだけを続ける未来にも、満足できそうにありません。
三つとも本当に大切、ということはあります。
問題は、必ずしも「自分の価値観が分かっていない」ことではありません。魅力的な言葉の一覧に、現実の選択まで決めてもらおうとすること自体に無理があるのかもしれません。
そこで、問いを変えます。
この選択で、私は何を一番守りたいのか。そして、そう言える根拠は自分の生活のどこにあるのか。
こう考えると、探すものが変わります。一生自分を定義する言葉ではなく、目の前の一つの判断に使える根拠を探せばよくなります。
定義より、実際の場面から始める
たとえば、成長が大切だと感じているとします。
「自分は成長を重視する人間だろうか」と考える代わりに、成長が実際に大切だった場面を思い出してみます。
たとえば、こんな場面です。
それまで経験したことのない仕事を任されました。最初は思うように進まず苦労しましたが、試行錯誤して解決できた週は、いつもより強い充実感がありました。
次に、反対の場面も見てみます。
数か月のあいだ、仕事は簡単で予測しやすい状態が続きました。大きな問題はありませんでしたが、毎週ほとんど同じことの繰り返しでした。
前者には何度も意味を感じ、後者には繰り返し物足りなさを感じるなら、「成長」という言葉に、自分の経験に基づく中身が入ってきます。
ほかの価値観でも同じように考えられます。
自由なら、たとえばこうです。
「進め方を自分で決めてよいと任されてから、その仕事がずっとやりやすくなった。」
安定なら、こうかもしれません。
「予定や収入が不確かな時期があり、思っていた以上に生活全体へ影響した。」
ただし、こうした経験は「証明」ではありません。ある一日が良かった、悪かったというだけで、「本当の自分」が分かるわけではありません。
研究では、個人が重視する価値観と、それを表す行動には関連が見られる一方、その強さは価値観によって異なり、周囲から期待される行動が価値観と行動の結びつきを一部見えにくくすることも示されています。Bardi and Schwartz (2003)
ですから、自分の経験は性格診断の結果ではなく、判断材料の一つとして扱うのがよさそうです。
まずは、次の二つだけ書いてみます。
特に満足したのは: ______
特に嫌だった、または強く不満を感じたのは: ______
そのうえで、こう問い直します。
最初の場面には何があり、二つ目の場面には何がなかったのか。
辞書の定義を読むよりも、その答えのほうが「自分にとってその価値が何を意味するか」を具体的にしてくれることがあります。
日々の行動を見る。ただし、予定表だけで決めつけない
次は、その価値観と実際の行動を比べます。
成長が大切だと言っていて、自由に使える夜には、新しいことを学ぶ、何かを作る、練習する、少し難しいことに取り組む、といった選択をよくしているなら、それも一つの根拠になります。
ただし、ここには大事な限界があります。
時間の使い方は、価値観をそのまま写した地図ではありません。
生活費のために、週の大半を仕事に使っているかもしれません。誰かの世話が必要で、自由時間の多くをそこに使っているかもしれません。健康、お金、締め切り、家族への責任などによって、自分で選べる余地が小さくなることもあります。
たとえば、創造することをとても大切にしている人でも、家族の介護で疲れ切っていて、ほとんど創作の時間を取れないことはあります。
その人に対して、
「予定表に創作の時間がないのだから、創造性は本当は大切ではない」
と結論づけるのは無理があります。
そこで、問いをもう少し狭くします。
自分で選べる余地があるとき、私は何を繰り返し求め、守り、時間をつくっているだろう。
こうすれば、行動は判決ではなく、判断材料の一つになります。
言っていることと行動が一致しないように見えるときにも、この考え方は役立ちます。
たとえば「成長が大切」と思っているのに、新しい機会に不確実さが伴うたび、安全なほうを選んでいるとします。
それだけで、「成長を大切にしているという自己理解が間違っていた」とは言えません。
別の価値、たとえば安定が、「どこまでの不確実さなら受け入れられるか」という境界線を引いている可能性があります。
価値観が特に役立つのは、まさにこの境界線を考えるときです。
大切なもの同士がぶつかると、優先順位が見えやすくなる
二つの仕事を比べている場面を考えてみます。
一方は、仕事内容が予測しやすく、役割も慣れていて、安定感があります。
もう一方は、自分で決められる範囲が広く、学べることも多い一方、不確実さも大きくなります。
ここで、三つの価値観と、それぞれの根拠となる経験を書きます。
自由
「問題への取り組み方を自分で決められるときのほうが、仕事を進めやすい。」
成長
「あとから振り返って満足感が強い仕事は、最初はできなかったことを覚える必要があったものが多い。」
安定
「以前、不確実な状態が続いた時期に日常生活まで影響を受けたので、同じ状態は避けたい。」
ここで三つを一位から三位まで並べようとしても、やはり迷うかもしれません。
三つとも、実際の経験に支えられているからです。
そこで、質問を変えます。
どれが一番大切か。
ではなく、
この選択では、何を得るために、どこまでなら別の価値を譲れるだろう。
と考えます。
すると、たとえば次のような答えになります。
今回は、成長と自由を増やしたい。ただし、すでに自分に必要だと分かっている基本的な安定まで失いたくはない。土台となる条件が十分に安定しているなら、少し予測しにくい仕事は受け入れられる。
これは、
私の一番の価値観は成長です。
という言い方より、実際の判断に使いやすくなります。
前者は二つの仕事を比べる基準になります。
後者は主に、自分を説明する言葉です。
さらに具体化すると、こう整理できます。
| 大切にしたいこと | 自分の経験にある根拠 | 受け入れられること |
|---|---|---|
| 成長 | 新しいことを学ぶ必要がある仕事ほど、終えたあとの満足感が強い | 最初はうまくできなくてもよい |
| 自由 | 問題の解き方を自分で決められるほうが仕事を進めやすい | 細かな指示が少なくてもよい |
| 安定 | 過去の不確実さが生活のほかの部分にも影響した | 生活の土台そのものが不安定になる条件は避けたい |
ここまで来ると、抽象的な三つの言葉から一つを選んでいるわけではありません。
それぞれの言葉が実際には何を意味するのか、そしてどこから先は譲れないのかを考えています。
価値観を一生変わらないラベルにしなくていい
この整理を固定的な性格分類にしなくてよい理由は、もう一つあります。
ドイツのパネルデータを使った縦断研究では、成人期の価値観の優先順位には安定性が見られる一方で、時間の経過に伴う緩やかな変化も確認されました。また、その変化の軌跡は年齢、測定方法、調査対象、状況によって異なりうることにも注意が必要だとされています。Smallenbroek et al. (2023)
だからといって、価値観が毎週変わるという意味ではありません。
ただ、
「安定は自分の中で三位だから、これからもずっと三位でなければならない」
と決める必要はありません。
価値観の整理は、「自分は一生こういう人間だ」と分類するためのものではなく、今の状況で何が大切なのかを写す一枚のスナップショットとして使えます。
今、二つの仕事から選ぶ人にとっては、安定を守ることが重要かもしれません。
同じ人でも、数年後に安定した土台ができれば、自由にもっと重きを置けるかもしれません。
どちらかの判断が正しければ、もう一方が間違いになるわけではありません。
価値観を「判断の基準」に変える
このワークで大切なのは、最後にきれいな価値観リストを作ることではありません。
次の三つをつなげることです。
経験: この価値が「ある」「ない」と強く感じたのは、どんな場面だったか。
選択: 自分で選べる余地があるとき、この価値は実際の行動のどこに表れているか。
トレードオフ: ほかの大切な価値とぶつかったとき、何なら譲れて、何は譲れないか。
この三つがある程度つながれば、現実の選択に使える具体性が出てきます。
今考えている一つの選択について、次の文を埋めてみます。
この選択では、______を守りたい。なぜなら、______という経験から、それが自分にとって大切だと分かっているから。______は少しなら手放せるが、______までは手放したくない。
たとえば、こうなります。
この選択では、成長を守りたい。なぜなら、これまで最も満足感があった仕事では、新しいことを学ぶ必要があったから。多少の予測しにくさは受け入れられるが、日常生活に必要な基本的な安定までは手放したくない。
この一文が、あなたを一生定義するわけではありません。
その代わり、もっと実用的な役割を果たします。
今ここで何が大切なのか、どんな経験がその判断を支えているのか、そして自分の境界線がどこにあるのかを説明できます。
自分を完璧に言い表す言葉を見つける必要はありません。
必要なのは、今の選択に使えるだけの理由を、自分の言葉で説明できることです。
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