好きなことを仕事にしたら、好きではなくなる?

好きなことを収益化する前に、活動そのものへの愛着と、締切・依頼対応・修正・評価まで含む「仕事」を分けて考えてみます。

スケッチブックの横に、依頼メモとカレンダーが置かれ、趣味が仕事へ変わる境目を表している。

こんな思いを抱えている方へ

好きな趣味があり、周囲から収益化を勧められたものの、仕事にすると何が変わるのか不安を感じている人。

この記事で考えられること

作ること自体の楽しさと、売るために引き受ける仕事を分けて考え、趣味のまま守るか、小さく有料で試すか、収益化の形を変えるかを判断できる。

「これ、売ったら?」は、実際に買いたい人が現れる前のほうが気楽です

たとえば、あなたが絵を描くのが好きだとします。

静かな日曜の夜に描いた人物画を投稿したら、何人かが褒めてくれました。そこに、「依頼を受けたらいいのに」というコメントも付きます。

それは、うれしい言葉です。

ところが、そのあと本当にメッセージが届きます。

「来週の金曜日までに、パートナーの絵を描いてもらえますか? 料金はいくらですか?」

同じ「絵を描く」という行為なのに、急に感覚が変わります。

締切があります。描く相手は自分ではなく依頼者が決めます。料金も決めなければなりません。修正を頼まれるかもしれません。水曜の夜、今日は描きたくないと思っても、進める必要が出てくるかもしれません。

絵を描くこと自体は、今も好きです。それなのに、なぜ「お金をもらう」と考えた途端に重く感じるのでしょうか。

それは、本当に考えるべきことが、単にこうではないからです。

「好きなことでお金をもらいたいか?」

むしろ、こうです。

「好きなことを売るときに付いてくる仕事まで、自分はやりたいか?」

こちらのほうが、判断に使える問いです。

趣味そのものと、その周りにできる仕事は同じではありません

趣味として楽しんでいるときは、活動そのもの以外にも、自分で決められることがたくさんあります。

いつ始めるかを自分で決められます。

何を作るかも自分で決められます。

途中で「やっぱり違う」と思えば、やめても構いません。

誰にも見せない試作に3時間使うこともできます。

ところが、お金を受け取るようになると、その一部が変わることがあります。

今、楽しんでいること仕事にすると加わるかもしれないこと
作るものを自分で選ぶ依頼や指示に沿って作る
やりたいときに始める約束した期限に向けて進める
途中で方向を変える約束した内容を仕上げる
どこで完成とするか自分で決める修正依頼に対応する
見せたいものだけを公開する相手から評価を受ける
作ることに集中する価格設定、連絡、日程調整、事務作業も行う

もちろん、これらが悪いとは限りません。

締切があるほうが動きやすい人もいます。依頼者からのお題が、新しい挑戦になることもあります。感想や指摘が、上達の助けになる場合もあります。

ただし、「その活動が得意であること」だけでは、こうした仕事も楽しめるかどうかは分かりません。

ここで最初に分けておきたいのは、その点です。

得意であることは、売れる可能性の手がかりにはなります。でも、売り続ける生活を自分が望むかまでは教えてくれません。

趣味を変えてしまう原因が、必ずしも「お金」とは限りません

この不安には、心理学で説明されている考え方と重なる部分があります。

研究では、活動そのものがおもしろい、楽しいという理由で取り組むことを内発的動機づけと呼びます。一方で、支払いや報酬など、活動の外にある結果を得るための動機は外発的動機づけに含まれます。RyanとDeciは、外発的動機づけにもいくつかの違いがあると整理しており、単純に一種類として扱ってはいません。Ryan & Deci, 2000

報酬についての研究も、「お金をもらうと好きではなくなる」と単純に言えるものではありません。

1999年のメタ分析では、128件の研究をまとめた結果、事前に与えられると分かっている有形の報酬のいくつかは、報酬がなくなったあとの内発的動機づけの指標が低くなることと関連していました。一方で、肯定的な言葉によるフィードバックなど、別の形では異なる結果も示されました。Deci, Koestner & Ryan, 1999

ただし、この結果から、「趣味を仕事にすると、その趣味が嫌いになる」とは言えません。これらの研究は、特定の実験条件で報酬と動機づけを調べたもので、個人の趣味を事業に変えた人を直接調べた研究ではありません。

その後の別のメタ分析は、「趣味を好きでいられるか」ではなく、主にパフォーマンスとの関係を調べています。そこでは、内発的動機づけと外的な報酬の両方がパフォーマンスの予測に関係し得ること、そして何がどれだけ関係するかは、パフォーマンスの種類や報酬の結びつき方によって異なることが示されました。Cerasoli, Nicklin & Ford, 2014

ここから使える結論は、もっと控えめです。

「お金が入ること自体が問題だ」と決めつけず、お金を受け取ることで何が変わるのかを見る。

たとえば写真が好きでも、その魅力が「予定を決めずに歩き、気になったものを自由に撮ること」にあるなら、結婚式の撮影を仕事にすることは、単に収入が増える以上の変化をもたらします。

一方で、依頼者がいて、目的が明確で、締切があるほうが写真を撮ることにやりがいを感じる人もいるでしょう。

同じ活動でも、どんな形で仕事にするかによって、体験は大きく変わります。

趣味ではなく、「仕事になった状態」を試してみます

たとえば、デジタルイラストを描くのが好きだとします。

ここで、

「プロのイラストレーターになるべきか?」

と考えると、問いが大きすぎて答えにくくなります。

代わりに、有料で依頼を受けた状態を具体的にしてみます。

「指定された内容のイラスト依頼を受ける。料金と作業範囲を決める。金曜日までに完成させる。依頼者へ返信する。修正を1回受けて、完成データを納品する。」

この一文を見てみると、何が嫌なのかが少し分かりやすくなります。

絵を描くことは今も好き。でも、注文されたものを描くことには気が進まない。

それなら、結論は必ずしも、

「絵でお金を稼ぐのは向いていない」

ではありません。

もしかすると、

「依頼どおりに絵を描く仕事はしたくない」

なのかもしれません。

それなら、自分が描きたい作品を作り、その完成品をときどき販売する形のほうが合う可能性があります。

あるいは、締切は平気でも、価格交渉が負担なのかもしれません。その場合は、価格の決め方を単純にできるなら、収益化を試す余地があると考えられます。

逆に、一通り試してみたら、思っていたより楽しいと分かることもあります。誰かの希望に応えることが、今までとは別の意味を活動に与える場合もあります。

だから、確かめたいのは、

「誰かがお金を払ってくれるか?」

だけではありません。

「有料にしたときに増える仕事のうち、どこまでなら自分は繰り返したいか?」

です。

一連の流れで見ると、こうなります。

作る → 連絡する → 納品する → 感想や評価を受ける → 必要なら修正する → お金を受け取る

最初の「作る」だけを続けたいなら、それも大事な答えです。

全部をまたやりたいと思えるなら、それも同じように大事な答えです。

趣味のまま残すのも、はっきりした選択です

「せっかく得意なのだから、活かしたほうがいい」と言われると、見えにくくなる選択肢があります。

その活動を、自分のためだけに残すことです。

たとえば普段の仕事ですでに、締切、連絡、目標、周囲からの期待に囲まれているとします。

土曜の朝にパンを焼くのは、誰も待っていないから楽しいのかもしれません。変わったレシピを試して、完全に失敗して、笑って終わってもいい。効率を求める必要も、誰かを満足させる必要もありません。

その自由こそが趣味の大事な部分なら、仕事の都合から守ることにも意味があります。

だからといって、収益化が間違いという話ではありません。

活動が生み出す価値は、収入だけではないということです。

好奇心を満たすこともあります。休む時間になることもあります。難しいことへ挑戦する場にも、自分を表現する場にも、人とつながるきっかけにもなります。

「何かを証明しなくていい時間」として残すことにも価値があります。

できることを、すべてサービスに変える必要はありません。

「何を売るのか」まで決めると、判断しやすくなります

誰かに「これ、収益化したら?」と言われたとき、趣味を仕事にするかどうかを、その場で決める必要はありません。

問いを少し小さくできます。

「これが大好きだから、仕事にしたいか?」

ではなく、

「お金をもらうなら、具体的に何をすることになるのか。その中で、自分が本当にやりたいのはどこまでか?」

と考えてみます。

答えは、たとえばこうなるかもしれません。

「絵を描くのは好き。でも依頼制作はしたくない。自分で描いた作品を売るなら試してみたい。」

あるいは、

「パン作りは好き。でも週末に注文を受ける生活にはしたくない。これは自分のために残したい。」

あるいは、

「作ることも好きだし、お客さんとのやり取りにも少し興味がある。大きく決める前に、まず1件だけ有料で試してみたい。」

このほうが、「好きなことを仕事にしよう」や「好きなことは仕事にしないほうがいい」と一言で決めるより、ずっと具体的です。

考えているのは、趣味に「仕事にするだけの価値があるか」ではありません。

その趣味のどの部分を、仕事にしてもいいと思えるかです。

そこまで分けて考えれば、好きなことから収入を得る可能性を試しながら、趣味と仕事が同じものだと決めつけずに済みます。

そして、自分のためだけに残すと決めたとしても、それを「せっかくの才能を無駄にした」と考える必要はありません。